「受喜与幸~受ける喜び、与える幸せ~」 

新原 豊(にいはら・ゆたか)

Vol.1 生命と希望

 医学はいま、日進月歩の勢いで進歩を続けています。


 新しい治療法が見つかること、難病に効く薬が開発されることは、人間の生きる希望に直結します。


 医療という〝希望〟を運ぶ仕事―私は自分の仕事をそのようにとらえてきましたが、私が医師になってもう〇余年がたちました。


 私は長年、ライフワークとして「鎌形(かま がた)赤血球症」という難病の治療薬の開発に携わってきました。その研究に、ようやく希望の光が見えはじめたのは、一九九〇年代の半ばのことです。

 鎌形赤血球症―多くの人には耳になじみのない病気でしょうが、それは遺伝子の変異によって、血液中の赤血球のはたらきが損なわれてしまう疾患です。そのために全身の血流に支障が生じて、重症化すると重度の貧血や臓器不全なども引き起こし、最悪の場合、激痛に苦しみながら死を迎えることもある怖い病気なのです。


 鎌形赤血球症は黒人の方々に多く、アフリカ、アメリカを中心に、いま世界で二五〇〇万人の患者さんがいるといわれていますが、アフリカでは二〇歳まで生きられる人は、そのうちのわずか一パーセントにすぎません。


 働き手となる若い世代を失うのに加え、激しい痛みを緩和させるために麻薬を常用する人も多く、貧困や犯罪と密接にかかわっている世界的に深刻な病気なのです。


 遺伝子の突然変異で赤血球が変形することによってこの病気が起こるということが発見されたのは、二〇世紀初頭のことでした。それ以来、一〇〇年以上にわたって現代医学による治療法を探るため、多くの医師によって研究がなされてきました。しかし、治療法として有望なものはなかなか見つからなかったのです。


 そんな状況の中、私たちが開発している治療薬の可能性が認識されはじめたのは、私が四〇代にさしかかるころのことでした。しかも、それは副作用がほとんどないというとてもありがたい薬なのです。そのため、一次突破さえむずかしいといわれる治験もスムーズにクリアし、第三次治験も無事成功しました。二〇一七年にアメリカFDAから医薬としての承認を得、現在は多くの患者さんたちの治療に使われております。


 このグッドニュースは、テレビをはじめとするメディアを通じてすぐさま全米に伝えられました。壮絶な痛みとともに一生を過ごさなければいけなかった多くの人々に、希望を届けることができたのです。